クラヴマガとは

この記事では、クラヴマガというイスラエル発祥の近接格闘術について詳しく解説しています。

クラヴマガは、1940年代にイミ・リヒテンフェルドによって開発され、主にイスラエル国防軍での使用を目的とした実戦的な自己防衛術で、現在では、軍や警察だけでなく、一般市民にも広く普及しています。

記事では、クラヴマガの特徴である「シンプルで効果的な動作」、「現実の危険に対応する技術」、「武器を持った相手への防御法」などについて触れています。

また、トレーニング内容や、クラヴマガが持つ精神的・身体的な強さを高める要素についても詳しく紹介しています。

クラヴマガは、短期間で実用的な技術を身につけることができ、誰でも学びやすい自己防衛術であることが強調されています。

イスラエル発祥の近接格闘術「クラヴマガ」

クラヴマガ(Krav Maga)は、シンプルかつ効果的な自己防衛技術として知られ、現代社会におけるあらゆる危険に対処するために開発された格闘技です。

クラヴマガは、イスラエル建国の為に作られた民兵組織の近接戦闘術(クラヴ=格闘、マガ=近接)です。

イスラエルでは男女ともに徴兵の対象であるので、力の弱い女性でも短期間で習得させる必要性があることから、身体の反射に基づいた動きを基本としており、覚えやすくかつ効果的なのがクラヴマガの特徴です。

軍事・警察のトレーニングを中心に広まりましたが、現在では民間の護身術としても世界中で人気を集めています。

腕や手首を掴まれた場合、首を絞められた場合などの脱出方法やナイフで襲われた場合、銃器への対処まで様々な武器への対処方法があります。

クラヴマガの創始者「イミ・リヒテンフェルド」

クラヴマガは1940年代に、ユダヤ系チェコスロバキア人のイミ・リヒテンフェルド(Imi Lichtenfeld)によって生まれました。

リヒテンフェルドは、ナチスの脅威から地元のユダヤ人コミュニティを守るために近接格闘の経験を積んでいました。

第二次世界大戦中、彼はイスラエルに移住し、独自の格闘技システムを発展させました。

その後の1940年代後半、第二次世界大戦後に、イスラエル国防軍(IDF)は、リヒテンフェルドの戦闘技術を正式に採用し、軍の兵士たちが過酷な戦闘環境で自己防衛と攻撃スキルを身につけるためのトレーニングとしてクラヴマガを使用しました。

1948年には、イスラエル正規軍の創設と共に、イスラエル軍の体力訓練学校にて、チーフインストラクターとして指導しながら1949年までイスラエルの独立戦争に参加し、実戦経験を積んでいきました。

1964年に軍を退職したイミは、イスラエル国内で、イスラエル国防軍や一般市民に指導を始めます。

1980年代初めには、イスラエル国内のインストラクターが渡米し、コミュニティーセンターやFBIトレーニングセンターにて、クラヴ・マガのデモンストレーションをおこない、世界各国に広がったと言われています。

クラヴマガの特徴

クラヴマガの最大の特徴は、実戦性効率性です。

クラヴマガはスポーツとしてのルールがなく、柔道やボクシングのように技術を競うものではなく、現実の危険な状況で生き残るために設計された、実用的な自己防衛技術を学ぶことに重点が置かれています。

いかなる手段でも相手を無力化し、最速で安全な場所へ逃げることを目的とします。

そのため、クラヴマガの技術は複雑な動きを排除し、誰でも学べるシンプルな技が多く取り入れられています。

以下は主な特徴です。

  1. 素早い反撃と無力化
    クラヴマガでは、攻撃を受けた際に素早く反撃し、相手を短時間で無力化することが重要です。相手の攻撃を防ぎながら、弱点を狙って反撃する技術が教えられます。これには、相手の目や喉等、急所など急所への攻撃が含まれます。
  2. ストレス下での対応力
    訓練は、ストレスフルな状況を想定して行われます。現実の攻撃は、しばしば予想外の状況で発生するため、トレーニングでは不利な位置からの攻撃や複数の相手に囲まれる場面もシミュレーションされます。このようなトレーニングにより、恐怖やストレスに耐性をつけ、実践で冷静に状況判断と対処ができるようになります。
  3. 武器に対する防御技術
    クラヴマガでは、ナイフや銃などの武器を持った相手への対処法も教えます。武器を持った攻撃者に対して防御を行い、反撃する技術を学び、武器を奪取して無力化することも含まれます。
  4. 現実的で実用的な技術
    クラヴマガでは、他の格闘技のように美しい形や技術の正確さよりも、実用性が優先されます。たとえば、パンチやキックにおいても力強くかつ効果的に相手にダメージを与えることが最重要視されます。状況に応じて、柔術やボクシング、ムエタイなど他の格闘技の要素も取り入れています。

クラヴマガの原則

クラヴマガは、ルールのある競技(空手、柔道、柔術、総合格闘技等)と異なり一切の禁じ手や制限がなく、相手(襲撃者)に「勝つ」のではなく、最悪な状況であっても「負けない」「生還する」ための実戦護身術です。
そのため、急所への打撃はもちろん、引っ掻き、噛みつき等、あらゆる方法を排除しません。

クラヴマガには以下のの原則があります。

  1. 脅威の排除
  2. 防御と反撃を同時に行う(もしくら防御から攻撃への素早い転換)
  3. 条件反射を利用した動き
  4. 急所等の弱い部分への攻撃
  5. 付近にある物を利用する

人間が反射的におこなうナチュラル・レスポンスが防御のの基本となっていて、素早く急所へ打撃を打つことで、襲撃者のセカンドアタックを予防することで攻撃を受ける機会を減らします。

このような原則のもと、クラヴ・マガの基本テクニックが作られています。

欧米諸国での普及

クラヴマガは、その実戦的で効率的な自己防衛技術のため、以下のような機関や組織で採用されています。

1. イスラエル国防軍(IDF)

クラヴマガは、もともとイスラエル国防軍での使用を目的として開発されました。IDFでは、兵士が戦場で遭遇するさまざまな状況に対応するための近接戦闘技術としてクラヴマガを訓練しています。

2. イスラエルの警察・特殊部隊

イスラエルの警察や特殊部隊(ヤマムなど)でも、クラヴマガは犯罪者の逮捕やテロ対策など、実戦的な任務における防衛と攻撃技術として採用されています。

3. 世界各国の軍隊

米国をはじめ、様々な国の軍隊でクラヴマガが取り入れられています。米軍の特殊部隊(Navy SEALsやグリーンベレー)などでも、戦闘訓練の一環としてクラヴマガが使われています。

4. 警察機関

多くの国の警察(特に戦術部隊や特殊任務部隊)でも、クラヴマガは犯罪者の制圧や、武器を持った相手への対応技術として採用されています。アメリカやヨーロッパの警察でもクラヴマガを採用する機関が増えています。

5. セキュリティ企業・民間防衛機関

セキュリティガードやボディガードのトレーニングにもクラヴマガが取り入れられています。危険な状況に迅速に対応するため、実戦的な防御技術を学ぶために採用されています。

6. 民間の自己防衛スクール

世界中で、一般市民向けにクラヴマガを教える自己防衛スクールが数多く存在します。特に都市部でのストリートでの暴力対策や自己防衛術として人気があります。

これらの機関でクラヴマガが採用されている理由は、その実用性、迅速な反撃能力、そしてさまざまな武器に対する防御技術の高さにあります。

クラヴマガのメリット

クラヴマガの最大の魅力は、誰でも短期間で実用的な自己防衛技術を習得できる点です。

特に以下のような人々にメリットがあります。

  • 一般市民:危険な状況に対処できるよう、日常生活に役立つ自己防衛技術を学べます。
  • 警察や軍人:現場での危険な状況に対処するための実戦的な技術が求められる人々に最適です。
  • 女性:身体的に不利な状況でも、相手を素早く無力化できる技術が学べるため、女性の自己防衛技術としても人気があります。

クラヴマガのトレーニング

クラヴマガのトレーニングは、単なる技術の習得だけでなく、メンタルとフィジカルの両面の強化が求められます。以下は典型的なクラヴマガのトレーニング内容です。

  • 基本の自己防衛技術:パンチ、キック、エルボー、膝蹴りなどの基本的な打撃技術を習得します。
  • 対武器技術:ナイフや銃を持った相手に対する防御と反撃の練習。
  • 状況別のシミュレーション:路上での襲撃や、車内での攻撃など、さまざまな現実的な状況を再現し、その中での対応を訓練します。
  • メンタルトレーニング:プレッシャーや恐怖の中で、冷静に判断し行動できるようにメンタルの強化も重視されます。
護身術をする女性

アクションシーンでの採用

クラヴマガは、その実戦的な技術とリアルな戦闘スタイルが映画においても採用され、迫力のあるアクションシーンで観客を魅了しています。以下は、クラヴマガを使用した戦闘シーンが見られる映画の例です。

各映画では、実戦的な格闘技術がアクションシーンの重要な要素となっており、クラヴマガのシンプルかつ効率的な戦闘スタイルが強調されています。

1. 「ジェイソン・ボーン」シリーズ

  • 主演: マット・デイモン

このシリーズでは、記憶を失った元CIA工作員ジェイソン・ボーンが、世界中を逃げ回りながら、次々と敵を倒していきます。クラヴマガをベースとした近接格闘技がアクションシーンの中心となっており、ボーンのスピーディーで無駄のない動きが特徴です。特に、武器を使わず素手で敵を制圧する場面や、日常的な道具を武器に変えるボーンの戦闘スタイルが印象的です。

2. 「96時間(Taken)」シリーズ

  • 主演: リーアム・ニーソン

リーアム・ニーソン演じる元CIA工作員ブライアン・ミルズが、誘拐された娘を救うためにヨーロッパ中を駆け巡り、敵と戦います。彼の戦闘スタイルもクラヴマガに影響されており、素早い反撃や、敵の攻撃を利用して効率的に制圧する技術が描かれています。シリーズを通じて、敵の急所を狙った直接的な攻撃が特徴です。

3. 「ダークナイト」シリーズ

  • 主演: クリスチャン・ベール

バットマンとして知られるブルース・ウェインは、ゴッサム市を守るために、クラヴマガを含むさまざまな格闘技を駆使します。特に近接戦での素早く効率的な攻撃が強調されており、犯罪者を制圧するシーンでは、クラヴマガの技術が見られます。バットマンの戦闘スタイルは、戦場のリアルな格闘技術を採用し、非常に実用的なものとなっています。

4. 「ミッション:インポッシブル」シリーズ

  • 主演: トム・クルーズ

イーサン・ハント(トム・クルーズ)は、ミッション中に様々な格闘技を駆使して敵を倒します。シリーズの中で、特にクラヴマガの影響を受けた格闘シーンが見られ、武器を使わずに敵を効率的に倒すスピード感あるアクションが描かれています。

5. 「キャプテン・アメリカ」シリーズ

  • 主演: クリス・エヴァンス

クリス・エヴァンス演じるキャプテン・アメリカは、超人的なパワーを持つヒーローですが、戦闘スタイルは非常に実用的です。特に「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」では、クラヴマガに似た格闘技を用いた近接戦闘シーンが多く、素早い動きと敵の攻撃を利用した反撃が特徴的です。

6. 「ジョン・ウィック」シリーズ

  • 主演: キアヌ・リーブス

キアヌ・リーブス演じるジョン・ウィックは、元ヒットマンであり、クラヴマガをはじめとする複数の格闘技を駆使して戦います。このシリーズでは、クラヴマガを取り入れた手際の良い近接戦闘や、ガンフー(銃と格闘技の融合)が印象的です。特に、相手の攻撃を巧みにかわしつつ、スムーズに反撃に移る技術が強調されています。

7. 「イナフ(Enough)」

  • 主演: ジェニファー・ロペス

この映画では、ジェニファー・ロペス演じるスリムが夫の暴力から逃れ、自らクラヴマガを学んで立ち向かうという物語です。クラヴマガの自己防衛術が重要なテーマとなっており、彼女が訓練を通して自信と力をつけ、最終的に夫との対決に臨む様子が描かれています。映画の中でクラヴマガの実用的な技術が強調されています。

8. 「トロイ(Troy)」

  • 主演: ブラッド・ピット

古代ギリシャを舞台にしたこの歴史アクション映画では、クラヴマガのような現代格闘技は登場しませんが、戦闘シーンは非常にリアルで迫力があります。ブラッド・ピット演じるアキレウスの戦闘シーンは、スピーディーで強力な攻撃が特徴で、剣術や盾を使った防御が描かれています。特にアキレウスとヘクトールの一騎打ちは、映画のハイライトとして知られています。

これらの映画はそれぞれ、クラヴマガや実戦的な格闘技を取り入れており、アクションシーンでの緊張感やリアリティが観客を魅了しています。特に、効率的な攻撃と防御のスムーズな移行が特徴的で、クラヴマガの技術をうまく活用している作品が多いです。

クラヴマガは、映画の中でリアルで迫力のある近接戦闘を演出するのに非常に適した格闘技です。シンプルで効率的な技術が、スピーディーかつダイナミックなアクションシーンを生み出しており、現代のアクション映画でよく使われています。

まとめ

クラヴマガは、ルールに縛られない現実的な自己防衛術として、あらゆる状況での生存能力を高めることを目的とした格闘技です。その起源はイスラエル軍にありますが、今日では一般市民に向けたトレーニングとしても広く普及しています。クラヴマガのトレーニングを通じて、身体的な強さだけでなく、精神的な強さも養われ、現実の危機に直面した際の冷静な対処法を身に付けることができます。

クラヴマガは、シンプルで実戦的、そして誰でも学べる自己防衛術として、多くの人々にとって非常に有益な選択肢です。


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