護身術「手首を掴まれたら」

手首を掴まれて揺さぶられる、引っ張られる。その後に建物や車内に連れ込まれる。力の弱い女性や子供は必死に抵抗しても振りほどくことが難しく、ただ体力だけが消耗していきます。
体の末端である手首を掴まれて引っ張られると、体ごと相手に持っていかれるばかりか、防御のために”腕を上げる”ことや”手で何かを掴む”といった行動まで制限されるでしょう。
この状況から逃げるための護身術と考え方をご紹介します。

手首の掴み方

”手首を掴まれる”と言っても、意外と多くのパターンが存在します。

① ストレートハンド
同側の手で手首を掴まれている状態。

 

② クロスハンド
対角線で手首を掴まれている状態。

 

③ ダブルハンド(片手)
両手で片方の手首を掴まれている状態。

 

④ ダブルハンド(両手)
両手で両手首を掴まれている状態。

これ以外にも、手を上げている状態から手首を掴まれる状態や、後ろから両手首を掴まれる等もあります。
こんなに種類があったら、覚えられないのでは?
と思う方もいると思いますが、共通しているポイントさえ分かれば難しいものではありません。
また、護身術クラヴマガは、条件反射を元に作られているのですぐに体が覚えてくれます。
今回は、①の同側の手で手首を掴まれた状態からの外し方をご紹介していきます。

逃げたければ逃げるな?

手首を掴まれた場合、絶対にやってはいけない行動があります。
それは、手首を掴んでいる相手と反対方向に逃げようとする行為です。
手首を掴んでいる相手と反対方向に逃げようとすると、両サイドから引っ張られる形になり、腕は一直線に伸びてしまいます。
これでは力が入らないばかりか、手首がストッパーとなり、相手の握っている手は引っ掛かり、外れ難くなるのです。
この形こそが逃げられない要因となるわけです。
人間は、手や腕を使い何か作業をする時は、必ず自分の体の方に手を寄せて作業します。
その方が力が入るのです。
例えば、ダンボール箱を両手で持つような時です。腕を縮めて体に近くした方が持ちやすいはずです。
反対に腕を伸ばした状態のままダンボール箱を持ってみて下さい。
力が入らず持ち難いはずです。
手首を掴まれた場合の護身術も同じで、まず掴まれた腕を自分の近くに寄せなければいけません。
そうしなければ掴んでいる相手の手を外すことが出来ないのです。
しかし、自分より腕力が強い相手に掴まれているのに、どうやって引き寄せるのか。
答えは簡単です。自分から相手に近付けばいいのです。

テコの原理を使え!

相手の手を外す時は、掴んでいる手の指先がターゲットになります。


ここから手首を抜いていくわけですが、まず手首を回転させ、親指をターゲットに合わせます。
人間の手首は楕円形になっているため、こうすると抜きやすくなります。


手首を抜く時に腕ごと振り回しても効果はありません。
護身術クラヴマガでは”エルボーキッス”と呼ばれるテコの原理を使います。

テコの原理では、作用点(手首)と支点(肘)は近い方が力が最大限加わりやすくなります。
肘と肘を寄せることにより、作用点と支点が近くなり、小さな力でも離脱することができます。
1つ1つ説明をすると、何やら凄く難しいように感じますが、通してやってみるとそんなに難しいものではありません。

掴まれる前に始まっている護身術

手首を掴まれる前に相手の不審な行動を察知できれば、距離を取って触れさせないようにも出来ます。
必ずしも、何かをされてから気付くわけではありません。
クラヴマガでは、時間の経過と共に、相手の行動(攻撃)が変化するという”タイムライン”の概念を元にテクニックを教えています。数m前で不審者に気付いたのにも関わらず、何かをされるまで黙って待っている必要はないのです。

外した後

運良く、掴まれている手を外すことが出来ました。
さて、その後はどうしますか?
残念ながら、次に相手が起こす反応は未知数です。
もしかしたら、再度掴まえにくるかもしれません。
もしかしたら、激昂して殴りかかって来るかもしれません。
もしかしたら、激昂して刃物を出すかもしれません。
そんな予測不能な時に、掴まれている手を外して、黙って立ち尽くしていたのでは、危険から逃げるという、本来の目的が達成出来なくなるかもしれません。
脅威(掴まれたら)を排除したら、すぐに危険なエリア(相手の攻撃が届いてしまう距離または半径)から脱出しなければならないのです。距離を取り、危険なエリアから出れば相手が次に何かしらの攻撃を仕掛けて来ても、対処する時間は作り出せます。
そして、この危険なエリアから逃げる時に行うのが次に説明する”アクティブスキャン”となります。

情報収集が大切

危険なエリアから遠ざかる時に、ただ移動しただけでは意味がありません。
相手の状況は?
武器を隠し持ってないか?
他に仲間がいるか?
付近にある物で武器になりそうなものないか?
出口はあるか?
助けを呼べそうな人はいるか?
こういった情報を目で見て収集することを、”アクティブスキャン”といいます。
このように、助かるためには、何でも見付けて活用するのが護身術です。
人間は、見ようと意識しないと見れないものです。
ですから、見るという行為を意識して行うことが大切です。
また、戦闘状態にある人間は、アドレナリンが大量に分泌され、危機から逃げきるためのパワーを出しますが、それは本能的な動きのみとなり、繊細な動きやまわりの情報を認識する能力は低下します。
ですから普段のトレーニングで、テクニックだけではなく、この”スキャン”もトレーニングし、癖をつけなければならないのです。

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次回は”首絞め”からの離脱方法をご紹介する予定です。